〔特集〕サイクリング長野が選ぶ2023年シーズン最も印象に残った信州のレース5選。

「令和6年 能登半島地震」で被災された全ての皆様に心よりお見舞いを申し上げます。度重なる報道を見ていると本当に圧し潰されるような感情が去来します。特に一昨年お世話になった能登島コミュニティセンターが避難所になっているとのこと…。いまこの時点で出来ることは多くありませんが、当サイトも皆様の御心に寄り添い、皆様と共にありたいと思っております。どなた様も引き続き余震が続いておりますので、先ずはくれぐれも安全にお過ごしください。〔1月5日〕 

〔特集〕サイクリング長野が選ぶ2023年シーズン最も印象に残った信州のレース5選。

 

 2024年も残すところあとわずかとなりました、今年もサイクリング長野が選ぶ年末恒例のベストレース5戦。毎年楽しみにして下さる読者の方も多く、毎年熱いメッセージを頂くので気の抜けない部分があります。今年を振り返ってみると、インターハイがそうであったように、多くの大会で声を出しての通常応援が許されるようになり、この2年間のコロナ禍も実質的に収束したシーズンとなりました。

そうした通常に戻ったシーズンを改めて当サイトが振り返り、心に強く残ったレースをご紹介したいと思います。毎年のことですが、これは大手のメディアが伝える「栄光」や「感動」と云うモノとは少し違います。一般サイクリスト・自転車ファンの方から見ると「何であれが入っとらんの?」と クレーム ご指導を頂くのですが、そこはこの一年で自分が最も近い距離で長野県内のレース・長野県選手たちを見てきた自分が心に残ったものを後世に残したい。その想いで歴史を綴りたいと思います。

恒例のように、自転車有識者の皆様からは、サイクリング長野ごときが何を言うのか?という有難いお言葉も頂きますが、有識者の皆様には来年もぜひ1回でも会場に足を運んで長野県の選手の姿を見てもらえればと思います。今年も当サイトの独断と偏見で5つのレースをご紹介したいと思いますので是非ご覧いただければと思います。

 

 

 

①信州にMTBが戻って来た!「Coupe du Japon」復活開催!!

 

 

 

2024 Coupe du Japon 第5戦「白馬岩岳」
9月2日㈯・3日㈰ 白馬岩岳MTBパーク

 

 

 国内のマウンテンバイク公式戦シリーズ「Coupe du Japon」。

2021年の開催を最後に、信州で年に2度開催されていた

公式戦がカレンダーから消えました。

 

 

昨年2022年は、MTB競技の中の「ダウンヒル競技」だけに関しては

当時公式戦では無かった「KENDA ダウンヒルシリーズ」が

JCF公認となったことで何とか長野県内でも公式戦が開催されたが

MTB競技において花形種目であった「クロスカントリー」は

ついに信州での開催が消滅となってしまいました。

 

 

この問題については、単にコロナ禍という問題でなく

下げ止まりが続かない競技人口や、MTB界が抱える

構造的な問題が大きく、当サイトにも様々な意見が寄せられ

その寄せられる意見の惨状を見ていて強く思ったことは

「正直、聞くに堪えない!」「この業界は本当に進退窮まった」

というのが率直な感想でした。

 

 

そんな混乱のなか、Coupe du Japonを主催する

MTB LEAGUEが、2023年1月27日㈰に年間カレンダーを発表。

そこには、9月におよそ2年ぶりに長野県内で

クロスカントリー競技公式戦の復活開催が記載されており

信州でのクロスカントリー公式戦の復活が発表された。

 

 

2023年9月2日㈯。

 

 

前哨戦としての大会初日は

午前中に小学校の各年代のレース。

午後は男子トップ選手による短距離の

「ショートトラック」(XCC)が行われた。 

 

 

2年ぶりの信州開催となった信州での復活開催を待ちわびた

キッズ選手が県内外から数多く集まり

子供たちの元気な声が長野県に戻って来た。

 

 

自分から見て、MTBの信州開催消滅については、

「人の心が大きく離れた」ことが

大きな要因の一つと感じており、

復活には一度離れた人の心を再び手繰り寄せ

一つにまとめなければならず

今回の開催に際しては、地元白馬岩岳関係者の皆さんの

自転車競技開催に対する深い理解や、

地元ホストチームとして運営の先頭に立った

白馬マウンテンバイククラブのメンバーの皆さん

そして、代表の原知義代表の強い想いを感じる大会であり

開催に携わった人々「熱」を感じる大会だった。

 

 

昨年に引き続き、白馬岩岳の皆さんの

信州MTB文化継承にかける想いを

今年のベストレースの1番に書き残したい。

 

信州で2年ぶりの開催となったCJ白馬岩岳
オープニングレースは小学校低学年の部がスタート!

 

各カテゴリーで、地元HMBC(白馬MTBクラブ)の青いユニフォームが
楽しそうにコースを駆け抜けてゆく。

 

今年最もカメラで撮影をしていて印象に残った一コマ。
小学校女子低学年の表彰式を待つ3人の選手たちが
表彰式に呼ばれ表彰台に座り
楽しそうにおしゃべりをしている。

 

なかなか表彰式が始まらないので、3人だけで話し合って
表彰式での万歳の練習を始めた。
この写真がおそらく今年の当サイトのなかで
一番ほのぼのとした写真だと思う。

 

表彰が終わり、最後にメディアに対するフォトセッションが行われ
先ほどの万歳の練習の成果を見せてくれた。
この写真をして、信州にMTBが戻って来たことの意義を
改めて考えさせられた。

 

午後は男子エリート「ショートトラック」が開催され
伊那北高出身の鈴木来人(アブニールサイクリング山梨)が
スタートと同時に前へ出てホールショットを狙う。

 

地元白馬高校出身の平林安里が、沢田時と激しい
デッドヒートを繰り広げた。

 

男子優勝はかつて長野市を拠点に活動していた
沢田時(宇都宮ブリッツェン)が優勝。
2位は地元の平林、3位は宮津(王滝村職)となった。

 

2年ぶりのMTBクロスカントリー公式戦
信州開催復活を牽引した白馬MTBクラブ原知義代表

 

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②笑顔の初開催!「第1回JBCF ながわタイムトライアル」

 

 

「第1回 JBCFながわまちタイムトライアル」
9月30日㈯・10月1日㈰ ブランシュたかやま特設コース

 

 

構想約3年…

 

長和町で初開催されたロードレース

全日本実業団自転車競技連盟(JBCF)主催の

第1回 JBCF 信州・長和町タイムトライアル。

 

 

当初は昨年の開催が予定されていたが

様々な状況が重なり延期、また当初は

「初日タイムトライアル」「二日目クリテリウム」と

アナウンスされていたがそれも変更となり

 ◇初日「個人ロードタイムトライアル」

 ◇二日目「チームロードタイムトライアル」

という日程で開催されることが発表された。

 

 

開催当日は生憎、九州などで大きなレースが

あったため、実業団のトップ選手がエントリーしなかったものの

マスターズ(35歳以上)の選手が

数多くエントリーしたことで、逆に

笑顔の絶えない大盛況の大会となった。

 

 

個人タイムトライアルとなった大会初日
1分間隔で順番にスタートをして行く。
テントには出場する選手による列ができた。

 

長野県からは昨年末の練習中に首回りの靭帯を断裂する
大怪我をしたマスターズの河野仁選手(チャクボタレーシング)が
およそ1年ぶりの復帰を果たした。

 

コースは、急な上りと下りを含む

全長8.8㎞コースで

序盤は特に強烈な登坂区間があり

初開催のコースで選手を苦しめた。

 

スタート直後に強烈な登坂区間となり
あっと間にスタート地点が「眼下の風景」となる。

 

時差1分でスタートだが選手は強烈な坂に苦しめられながらも
前の選手の背中を追って力走を見せた。

 

TOKYO 2020パラリンピックで金メダルを獲得した
杉浦 佳子(TEAM EMMA Cycling)も力走を見せる。

 

今大会この大会が盛り上がったのは

選手、スタッフ、審判のほか、会場に集まった

地域の皆さんや、ファンの皆さんに

抽選番号が書かれた「うちわ」が配布され

レース終了後に大抽選会が行われた。

 

 

表彰式ならびに大抽選会の司会となった
高坂梓さんと、長和町スポーツコミッションの
モーリーこと森達哉会長。

 

この高坂さんについて

選手・競技役員関係者から

何か見たことあるんだけど…

高坂梓さんって誰ですか?

サイクリング長野さんの関係ですか?と

やたら聞かれたのですが… 

高坂さんは、信濃毎日新聞で連載されている

漫画の作者の方で、初めての司会だったそうです。

 

 

 

 

 

表彰式では、司会の森会長と

どこの大会でもノリの良いマスターズ選手たちの

絶妙な雰囲気とトークが不思議な化学反応を見せて

初開催とは思えない終始笑いの絶えないものとなった。

 

 

いま撮影した写真を見ていても

殆ど全ての写真に誰かの笑顔が刻まれている…

 

 

Jマスターズ・ツアーリーダー(マスターズ暫定年間リーダー)となった
SAND選手(LT United Cycling Team)が
地元名産のシャインマスカットに喜びポーズを見せる。

 

大会初日エリート1部(E1クラス)で優勝を果たした
大倉選手(MiNERVA-asahi)には地元の黒曜米が送られた。

 

女子優勝の廣瀬選手(サイタマサイクルプロジェクト)も黒曜米が送られた。
今大会はマスターズの先輩方が多かったこともあり
会場の雰囲気が終始和気藹々と、笑顔の絶えない表彰式となった。

 

 

【大会結果】

 

 

そんな楽しい雰囲気のなかで

お楽しみの大抽選会が行われた。

前筆のように今大会は、選手からチームスタッフ

ファンの皆さん、選手の付き添い家族、審判や

地元のボランティアの皆さんまで分け隔て無くの

大抽選会が行われた関係で殆どの人が帰らず

この抽選会に残ったため非常に盛り上がった。

 

 

配られた「うちわ」に抽選番号が書かれており
地元の名産品を中心とした豪華景品が当たる

 

メディアである自分も頂いた。抽選番号は「108」
まさに煩悩の数…

 

選手、ご家族、審判と次々に当選が決まり
町の名産品が手渡される。

 

1等は2万円の旅行券が手渡された。

 

 

毎年、各競技大会へプレスとして行くのですが

10月頃になるとその殺伐とした雰囲気に

非常に疲れてきます。

真剣勝負の中にいるから当然なんですが

自分は一年中その中にいる… 

 

 

去年も少し書いたのですが、そうしていると

スポーツ本来のあり方というものが何なのか?

それが分からなくなってきます。 

 

 

しかし、この初開催となった長和へお邪魔して

今も表彰式のあと撮影した全ての写真で

殆どの人が笑顔でいる… 

本当に振り返ってみると、この大会がどれだけ

参加者にとって楽しかったのか? 

それを如実にあらわしているような気がします。 

 

 

最近は、もはや公式戦では無い

地域のヒルクライムイベントまで

何だか変な勝利至上主義みたいになって来ているなかで

今回の大会は、自転車競技・サイクリングイベント(非競技)

そして、スポーツとしての本来のあり方を

改めて考えさせてくれた大会だと思います。

 

 

この僅か2週間前に、ツールド北海道で痛ましい事故があり

信州自転車界も重苦しい雰囲気に包まれましたが

その雰囲気を変えてくれた… 

 

 

そうした意味でも非常に意義の大きかった大会だと思います。

早くも来年は、7月6日㈯・7日㈰の両日の開催が発表されていますが

来年は七夕の日に再びこの大会で再会出来ればと思っています。

 

大会初日で全参加者によるフォトセッションが行われた。
良く、レースが終わり・セレモニーが終わっても
選手関係者が帰ろうとしない余韻が残った大会は良い大会だ!と言われますが
まさに初日から全参加者がイベント終了後に記念撮影で同じフレームに収まる。
それをして本当に素晴らしい大会だったと思います。
来年の第二回を楽しみに…

 

 

【来年の大会日程】

 

 

 

 

③土壇場からの「岡庭劇場」!逆転のインターハイへ!

 

 

「第55回 北信越高校体育大会自転車競技ロードレース」
6月17日㈯ 高岡市城光寺公園特設コース

 

 アマからプロまで、キッズからマスターまで… 

県民性なのか?とにかく真面目な選手が多い長野県。

歴代の「ベスト5」の中でも、ある意味で「非常に堅い」

レースが選出されて来たが、ここ数年の県勢のレースのなかで

非常に異質だったレースがあった。

 

 

 

2023年6月17日㈯

 

 

今年のインターハイ北信越地区の最終予選となる

北信越高校自転車ロードレース。

 

 

北信越大会のインターハイ出場枠は

「およそ10枠」(他地域との兼合いにより変動)

既に5月の各県大会で優勝した1名が

各県代表としてインターハイ出場が決まっているためこの

北信越大会は、既に出場権を持っている選手を除いて

最低でも上位5位以内に入らないとインターハイには出場できない。

 

 

長野県からは、インターハイ最後の予選となる

この大会に5月の長野予選をもとに

「飯田OIDE長姫」「松本工」

「駒ヶ根工」「飯田風越」の5校から2名ずつ

「白馬高」1名の合計9名の選手がこの大会に臨んだ。

 

 

長野県は、既に長野県大会優勝

黒沢響冴(飯田OIDE長姫3年)のほか、

前日まで開催のトラック競技で個人・団体あわせて三冠を達成した

好調の上里翔瑛(松本工2年)、長野県の高校生の中で唯一

全日本選手権の出場権を持つ田切智裕(飯田風越2年)などが

有力選手と目されていた。

 

 

今回の主人公である岡庭能亜(飯田風越2年)は、

前々日の1㎞タイムトライアルで

1分9秒の好タイムで3位となり

インターハイ派遣記録の1分10秒を切り

トラック競技でのインターハイ出場をほぼ決めていた。

 

 

前々日の1㎞タイムトライアルでインターハイ出場標準記録を
上回るタイムで3位となりトラック競技での出場を決定的にしていた岡庭。

 

 

もともと短距離に適性があると

思われていた岡庭にとっては、

ロードレースはどちらかというと重要視されないと

目されながらもレースがスタートする。

 

 

富山県高岡市の城光寺公園特設コースで北信越5県の代表26名が出走した。

 

 

コースは起伏に富んだ周回コースで

1周約3㎞のコースで総距離が33.2㎞。

所どころテクニカルなコーナーと

道幅の狭い部分もあり選手にとっては

難易度の高いコースとなった。

 

 

このコースで最も標高の高いエリアである陸上競技場付近を
パレード走行して行く選手たち。

 

逆に野球場付近からは下りと平坦が続く。

 

 

レースは序盤から「誰から脱落して行くか?」といった

サバイバルレースの展開となる。有力選手たちは

安定して周回を刻んで行くものの

中盤に差し掛かるにつれて、徐々に遅れる選手も目立ち始める。

 

 

長野県勢も駒ヶ根工業の

湯澤・松村などがリタイアとなり

飯田OIDE長姫の船澤も途中から

脚が痙攣してしまいながらも

何とか完走を目指すような厳しい展開となる。

 

 

船澤(飯田OIDE長姫)は中盤から終盤にかけて
脚が痙攣し始め集団から脱落
それでも沿道の声援を受けながら完走を目指す。

 

 

岡庭も序盤は好走を見せていたものの

中盤で一気に足が止まってしまい 

集団からズルズルと後退して行く。

 

 

脚の痙攣で遅れた船澤(飯田OIDE長姫)から
さらに遅れてしまう岡庭能亜(飯田風越)

 

 

レースは、同じく飯田風越の田切智裕が

メイン集団で奮戦する一方で

残り5周を前に岡庭は

もうタイムアウトギリギリで

誰の目にも「足きり寸前」状態だった。

 

 

集団から遅れ、もう誰の目にも
に船澤(飯田OIDE長姫)と岡庭能亜(飯田風越)の
完走は絶望的で、次の周にはタイムアウトだろう…と思われていた。

 

 

 

ところが、ここから「謎の岡庭劇場」が始まる。

残り3周回で徐々に集団との遅れを取り戻すと

メディアゾーンの前で

レース中に謎のピースサイン…

 

 

あいつなんかピースしてたぞ…
ここから謎に息を吹き返した岡庭劇場が始まった。

 

 

この直後、先ほどまでフラフラだった

岡庭が息を吹き返し、大歓声をうけながら

怒涛の追い上げを見せる。

 

 

残り3周土壇場で息を吹き返した岡庭が
鬼気迫る走りで先頭集団を追いかける
この力走に会場が一気に岡庭を応援し始める。

 

 

なんと、残り1周でなんとメイン集団に

追いつきレースは一気に振り出しとなる。

 

 

岡庭が先頭集団に追いつきレースは最終周回に突入して行く。

 

 

 

最終局面を前に、長野県勢は

飯田風越2名・松本工業2名・飯田OIDE長姫1名と

実に5名の選手が残る理想的な展開となり

仮にこのままゴールすると

この集団に残った5名のインターハイ出場が濃厚となってくる。

 

 

勝負はレース最後のストレート区間である

上り区間でのスプリント勝負になった…

ここで先頭でゴールしたのは

今大会これで四冠となる上里翔瑛(松本工)

さらに、マツコウ主将の酒井(松本工)

長野県大会王者の黒沢(飯田O長姫)と続く。

 

 

勝負は最後の上り最終スプリントとなり
上里翔瑛がこの大会、「団抜き」「ポイントレース」「個人追い抜き」に
続いて北信越大会四冠を達成。
2位は同じく松本工業の酒井、3位は長野県高校王者の黒沢(飯田OIDE長姫)と
表彰台を独占。

 

 

 

そして、レース終盤に突然覚醒した

岡庭能亜(飯田風越)は5位でゴールし

あわやリタイアから逆転のインターハイ出場を決めた。

 

 

 

このレース力走を見せた岡庭は5位入賞を果たし
1㎞タイムトライアルとロードレースの二種目で
インターハイ初出場を決めた。

 

レース後に

優勝した上里が岡庭のところへやってきて

 

 

 

自分が優勝したのに、岡庭の声援が大きすぎて

自分の優勝が霞んでしまった…

 

 

 

と語っていたとおり

突如始まった岡庭劇場は、大会を大いに盛り上げた。

 

 

 

その後…

 

 

8月に函館で行われた

インターハイ本戦に出場した岡庭は

1㎞タイムトライアルで力走を見せ

初めてのインターハイを終えた。

 

 

レース後、暫くは自力で立ち上がれないほどの

全力疾走をみせ、ロッカールームへ

引き上げる途中で倒れ医務室に運ばれた。

 

 

幸い大事は無かったものの

完全燃焼のインターハイだった。

 

 

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謎の岡庭劇場《秋》

 

 

 

北信越大会・インターハイの活躍で

秋の中部八県対抗戦では、初の長野県代表にも選出され

長野県自転車界の「時の人」となった

岡庭能亜(飯田風越)が、来年の春のセンバツ高校自転車を

かけて「長野県高校新人体育大会自転車ロードレース」に出場。

 

 

もはや、長野県内では勝って当たり前の岡庭が

予選B組に出場、レースは序盤から予想に反し

山田愛太(白馬高2年)と岡庭の

短距離を得意とする2名が積極的に動く展開。

 

 

このレースでも、北信越で見せた「岡庭ピース」を見せ

観客を「おぉぉぉ!」と熱狂させたところで…

 

 

 

 

 

脚が痙攣して撃沈。

 

 

 

 

 

確実かと思われた春のセンバツのロード出場権を予選で逸した。

幸いにも同じく飯田風越の田切智裕が新人戦初優勝を飾った。

 

 

 

 

こうして、様々な明るい話題を長野県自転車界にもたらした

2023年の高校自転車は終了した。

 

 

 

秋の「岡庭ピース」のあと、脚が痙攣してあえなくリタイア
このあとOBからのお叱りを受ける…。

 

 

岡庭選手に関しては、とにかく今年は

色々な話題を振りまいてくれました。

 

 

いま「自転車をやりたい」と言って来た日のことを

凄く良く覚えているのですが身長が187㎝ということで

岡庭選手の乗ることの出来る自転車をどうするか?

まさに規格外の大型新人が来たと思わされました。 

 

 

昨年は目立った成績こそ無かったのですが

今年の北信越で自転車を新車に乗り越えてブレイク。

ここにあるように、ロードレースでは鬼神の奮闘ぶりで

突如、無敵のスーパーマリオ状態になったかと思えば

秋は見事なまでのやられっぷり… 

 

 

ただ、いつも思わされるのは

岡庭は何かやってくれるという期待感を持たせる選手で

こうしたキャラクターの選手というのは

今までの長野県にあまりいなかったタイプの選手です。

来年は3年生ということでまだまだ成長過程の選手ですが

2023年、長野県の新たなタレントの台頭を象徴する選手であり

今後の活躍が期待されます。

 

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④信州大学ジャージを着て…「中学生 小林洋平の挑戦」。

 

 

 

JOCジュニアオリンピックカップ自転車競技大会
7月17日㈪ 松本市美鈴湖自転車競技場

 

 

 一昨年、当時中学生1年生だった小林洋平(信大付属長野中)は

JOCジュニアオリンピックの出場標準記録に届かず

出場権を得られず1年間、非常に悔しい想いをした。

 

 

それから1年後の昨年、悲願の初出場を果たすと

U15男子1㎞タイムトライアルで3位となり銅メダルを獲得した。

その苦難の道のりは、レース後に大きな反響を呼び

昨年のベストレース5戦にも選出した。

 

 

迎えた2023年の今年、中学3年生になった小林洋平を

取り巻く環境は大きく変わっていた。

今年から一つ上のU-17カテゴリーとなるが

昨年の実績も考慮され、ジュニア五輪には

2年連続の出場がすんなりと決定。

 

 

ほぼ無名だった昨年とは違い、

出場に際しては多くの関係者の注目を浴びた。 

 

 

また、所属する信州大学付属長野中学校も

校長先生や担任の先生、仲間たちも学校を挙げて応援してくれている。 

また、信州大学、信州大学自転車競技部ならびに

競技部のOBたちも小林洋平に対して深い理解を示してくれた。

 

 

 

2023年7月17日㈪

 

 

 

ジュニアオリンピックの舞台に再び

小林洋平が姿を現した時に

県内外の自転車関係者が非常に驚いた。

それは、小林洋平が付属中学の

母体である信州大学のユニフォームを着て会場に現れたからだ。

 

 

信州大学のユニフォームを着た小林洋平(信州大学付属長野中3年)が
ウエイティングエリアに現れ
ジュニア五輪長野県代表チーム小峰烈監督(日本競輪選手会長野支部長)が
洋平選手に支持を出す。

 

 

 

前筆のとおり、小林洋平は美鈴湖へ来た頃には

その素行に問題があって、そんな洋平選手に対して

信州大学出身で長野県代表主将の北沢竜太郎キャプテンや

競輪で活躍する、同じく信州大学出身の堀江省吾選手、

県最年長の小林英樹選手(MISUZUKO TEST TEAM)などの

先輩方が単に競技だけでなく、人間としてのありかたも含め

非常に根気よく指導し続けた。 

 

 

そんな洋平選手の苦しみながらも不器用に、直向きに前進する姿を見て

多くの信州大学の関係者が理解を示し、ジュニア五輪出場に際して

信州大学のユニフォームを着せてくれるという「粋な」計らいをしてくれた。

 

 

今回の大会である「U-17カテゴリー」は

出場選手の殆どが高校1年生ということで

中学生の洋平選手にとっては、全国の強豪高校の

選手を相手に胸を借りるチャレンジの大会となった。

 

 

 

信州大学のユニフォームを着て最初の種目1㎞タイムトライアルに出場する
小林洋平(信州大学付属中学)に会場から大きな声援が湧く。
本人の努力もさることながら、多くの人がいてこの場に自分が立てている。
それを感じる瞬間でもあった。

 

 

ユニフォームは、2019年の信州大学主将で

同じく洋平選手を指導した兼平優希氏の

現役時代に愛用していたものを着用した。

 

 

1分12秒585という好タイムで全国の高校生相手に12位。
来年へ向けて本人は手ごたえと課題を口にした。
このあと、本人が新たに挑戦するスプリントに臨む。

 

午後は初出場となる「スプリント」競技に挑戦。

スプリントは予選で200mタイムトライアルを行い

上位8名に入ると、そこからトーナメントで

2周回を1対1で競い合う競技になる。

洋平選手はこの種目唯一の中学生出場選手として

先ずは好タイムで予選突破を目指す。

 

 

200mのタイムは11秒6(平均時速61.5㎞)という好タイムを叩き出し
何と5位で準々決勝に進出。
午後の準々決勝では、インターハイ4連覇中の強豪
松山学院高校の大村選手との対戦が決まった。

 

洋平選手は200mを11秒6という

好タイムを叩き出し、並み居る高校生を

抑えて予選5位で準々決勝へ進出することが決まった。

 

 

対戦相手はインターハイ4連覇中の

名門愛媛松山学院高校との対戦が決まる。

 

 

自身初となるスプリント種目の相手は
名門松山学院の選手と…
中学生の洋平選手が松山学院の選手に
挑戦する姿は今年の長野県自転車界のなかでも
最も痺れたる場面だったかもしれない。

 

準々決勝は1本勝負で勝てば準決勝へ進出
洋平選手はアウト側からのスタートとなる。

 

残り1周回でチャレンジャーの洋平選手が先に仕掛ける。

 

最終第2コーナーで大村選手が前へ出ると
洋平選手も食らいついてゆく。

 

必死に追走を試みるも届かず準々決勝敗退

 

中学生の洋平選手は、

インターハイ4連覇中の松山学院のジャージに

ひるむことなく堂々たる戦いぶりを見せてくれた。 

 

 

 

レース直後、胸を借りた大村選手に

自分から挨拶をする姿を見て 

何よりもその部分に

多くの美鈴湖自転車競技コミュニティの人間は

洋平選手の人間的な成長をみた。

 

 

 

このレースのあと

もう一つ面白かったことは

美鈴湖へ洋平選手が来たころ

なかなか先輩たちからその存在を

認めてもらうことが出来なかった。

 

 

しかしこの日、洋平選手の勇敢な走りやその

立ち振る舞いをみた

美鈴湖の仲間や先輩たちが

口々に洋平選手に労いの言葉をかけていたこと… 

本当にもう誰も洋平選手の悪口を言う者はいなかった。 

 

 

洋平選手は昨年に続き、大きなモノを得た。

一つは、全国の強豪高校の選手たちと

互角に戦いぬいたという経験と自身。 

 

 

そして、それ以上に大切なことは、

洋平選手のことを応援してくれた

所属中学校、信州大学、信大自転車部・OB

そして、美鈴湖や長野県のサイクリストの

方々の「信頼」だったと思う。 

 

 

ただ、洋平選手は中学3年生… 

 

 

まだまだ自転車選手として、人間として

こんなモノであってもらっては困る。 

 

 

かつて、同じくMTBをやっていた

山田愛太(現白馬高)に憧れて

美鈴湖へやってきた洋平選手。

 

 

今度は洋平選手に憧れて

自転車を始める未来の自転車選手を

先輩として導く存在になって欲しい。

 

 

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⑤エンジョイサイクリング「ただ勝利のためで無く…」

 

 

四日市サイクルスポーツフェスティバル
第19回全国ジュニア自転車競技大会

10月29日㈰  三重県四日市市水沢・桜地区特設コース

 

 

 長野県のジュニア・ユース育成「美鈴湖VELOクラブ」は

県内の小中学生・高校生・壮年選手を育成すべく

この1年ほぼ毎週のように松本市美鈴湖自転車競技場にて行ってきた。

 

 

この育成クラブは、県内の自転車が大好きな子供たちが

集まったクラブであり、練習のたびに県内に点在している子が

再開しては和気藹々と楽しく自転車に乗っている。 

 

 

強化という面では、お楽しみサークルのようになってしまい

その雰囲気が時に「真剣味に欠ける」「勝利を目指す集団では無い」と

非難されることもあるが、それでも子供たちは

いつも楽しむことに全快で自転車に乗っている。

 

 

特に、清水京一朗(松本市立旭町中2年)と

松宗士織(松本市立丸ノ内中1年)は

共に松本市内に在住しており、比較的に近所に住んでいることもあり

毎週の練習では、二人で仲良くロードバイクに乗って

標高1000mの美鈴湖自転車競技場まで自走で練習にやってくる。

 

 

二人が楽しそうに美鈴湖へ上って来る姿は

美鈴湖競技場を使用する一般の方や、他県のチームの方にも話題となり

JOCジュニア五輪に初出場した清水京一朗は

共催の全日本マスターズの壮年選手からも多くの声援を受けた

 

 

彼らのただひたすらに楽しく自転車に乗る姿は

多くのサイクリストに自転車に乗り始めたころの

原点を思い浮かばせる… 

 

 

そんな二人が

 

 

2023年10月29日㈰ 三重県四日市市

ロードレースの全国大会である

「第19回全国ジュニア自転車競技大会」に出場。

小中学生のロードレース選手にとっては

年内最大の大会となるこのイベントに

共に中学生の部で出場した。

 

 

昨年の同大会では、小学生ながら出場した松宗は

第3グループのスプリント勝負に絡む大活躍を見せ

今年も上位進出が期待されていた。

 

 

一方で、清水京一朗は

今夏のJOCジュニアオリンピックトラック競技に

初出場するまでに成長を見せており

この大会に初出場することは

本人にとっても目標というよりも

「夢」に近いものがあった。

 

 

しかし、清水は直前に部活動での

バスケットボールの試合中に足首を負傷

この大会の前日に松葉づえがようやく取れたような

状況を圧して臨んだ大会でもあった。

 

 

レース直前のミーティングで

松宗は上位進出を目指して前方でレースを展開すること、

清水は来年を見据えてコースをのんびりサイクリングして来るという

テーマでレースに臨んだ。

 

 

レースは定刻どおりにスタート。

 

 

今年の全国ジュニア中学生の部がスタート

 

足首の負傷を抱えている清水京一朗は予定どおり
集団の最後尾からゆっくりとスタートして行く。

 

 

レースは1周回9㎞のコースを4周する

約35㎞で行われる。

 

 

オープニングラップから長野勢には

波乱の展開となった。

1周回終了時に集団前方でレースを行う予定だった

松宗士織が何時までたっても来ない。

 

 

流石に遅すぎる展開に

松宗の体調が心配になったが、

1周目を終えて目にしたのは

松宗が負傷している清水を牽引している姿だった。

 

 

1周目が終わり、松宗は負傷している清水を労りながら
清水の前方で風よけとして牽引している。

 

 

 

この展開は、今年一年でも非常に驚きがあった

 

 

誰もが自分の成績を一番に考えることが

当たり前の全国大会において

松宗は負傷している清水を労りながら

後方に下がってゴールを目指している。

 

 

第1コーナーを抜けて、下りから上りに差し掛かる場面では
松宗が清水を待ちながら指示を送る。

 

 

とかく、この年代(小中学生)の自転車選手は

良くも悪くも保護者と二人三脚で

ある意味「小皇帝」たちが沢山いる。

 

 

どのレースを見ても、「仲間と共に」という

概念が育ち難く、その傾向は現在の

日本のトップ選手たち・OBたちを見ても

そうした環境で幼少期を過ごしてきた

きらいがあることを大きく感じさせ

それがある意味当たり前のようになっている。

※ここに自転車界のすべての分野で人材難な根本的な要因があると思う。

 

 

このコース一番の上り部分で後方を伺い
清水を待つ松宗士織(丸の内中学)

 

痛みに耐えながら松宗を懸命に追う清水京一朗(旭町中学)。

 

 

彼らがこのレースで見せてくれたのは

常に一緒に練習をしているからこそ育まれた

「絆」であり、その根源にあるのは

お互いの「信頼」や「自己犠牲の精神」と言った

この先の人生を歩んで行く上で非常に重要な「人間性」だった。

 

 

現在の日本の自転車界においては

自転車を通じてそうした面を成長させることは

環境からして難しい。

 

 

しかし、子供たち同士が常に話し合って

お互いが協力しながら走る姿は

現在の長野県育成「VELOクラブ」を

象徴する姿だったのかも知れない。

 

 

彼らを見ていた選手や関係者が

異口同音に口にする言葉…

 

 

 

彼らを見ていると、自分が自転車に乗り始めた頃を思い出す。

 

 

 

この言葉は、非常に確信をついている部分があり

彼らを見ていると「そもそもスポーツというのはこういうものだ」

「スポーツを行う意味というのはこうことだ」という

原風景や原点を常に思い起こさせてくれる。

 

 

この1~2年で自転車を始めた小中学生が

逞しく育ってくれている。

松宗、清水に限らず

こうした子たちがきっと

長野県の将来の自転車界を牽引してくれる

そんな新たな時代を感じさせるレースだった。

 

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【後筆】

 

 

松宗・清水はこのレースを無事に完走。

清水はレース終了後に一時、歩行不能となり

救護所へ運ばれ処置を受けた。

後日、病院で精密検査を受けて

足首の炎症から出血があり数週間のドクターストップを受けた。

 

 

清水の場合、苦しさ・痛さ・辛さより

楽しさが全てに勝ってしまいセーブすることが出来ない。

それは非常に尊いことだし、刹那的な部分は美しくもあるが

改めて指導する者は無理をさせないことが必要。

 

※因みにこの文章では、ある意味美しく書いたが
 清水京一朗は、怪我の本当の状況を隠していた部分もあり
 この状況で無理をしたことを強く怒られた。
 また自分もそれに気づかなかったことは大いに反省した。
 まだまだ先のある中学生にとって一歩間違えれば
 その選手生命を絶ってしまう恐れがあったことを肝に銘じたい。

 

 

 

 

サイクリング長野より

 

 

 

という訳で、今年のベストレースいかがでしたか?

今年も様々なことがありました。

 

 

プロアマ・年代問わずレース中の事故や怪我をした選手も

非常に多かったことも特徴の年だったと思います。

 

 

昨年2023年は、コロナの影響で

2年ほど全くレースがなかった

35歳以上の壮年選手(マスターズ)の選手が復活!

まさに「マスターズの選手の年」だったと思います。

 

 

逆に今年は、ベスト5にもあるように

小学生・中学生・高校生という次代を担う

子供たちが本当に頑張ってくれました。

 

 

いまの世界の自転車界をみると

若手選手の活躍が目覚ましく

「U-23」はもう既に育成期間では無く

プロの世界でも主力とならなくてはいけない… 

そんな時代になってきました。

 

 

そこには子供たちを

プロの理屈で育てなければならないという

弊害もあり、これに関しては

大人たちが今後、注意しなければなりません。

 

 

ひるがえって、この長野県の自転車界においては

単に選手だけでなく、自転車に関わる全ての

分野で人材が不足しています。

 

 

指導者・メカニシャン・運営/企画・医療・メディア・技術者

そうした自転車を支える人材を育成して行くためにも

自転車が好きな子供たちや、自転車を志す若者に

出来るだけ早く様々なチャンスを与え

多様な可能性を育てることが

重要であり、それを長野県はここ数年間行い続けてきたことで

少しずつ芽が出始めて来た現れだと思います。

 

 

最後に、昨年と同じことを綴ります。

 

 

印象に残るレースというのは勝敗よりも

ソレを観た人の心に何を与えられたか?

何を残すことが出来たか?に尽きると思います。 

 

 

勝者は気高く尊い存在です。

勝負である以上、勝敗というのは1番大切です。 

 

 

しかし、物事は1番の前に

それ以上に大切な「0番」があるということを

忘れないで下さい。 

 

 

この「0番目の何か?」勝利より大切な何かは

その人、その人の価値観によって異なります。

 

 

どうか来年も、長野県の選手たちには

今日初めて自転車を観戦に来た人が見ても

「長野県の選手がこんなに頑張っていた!」と

家に帰って語りたくなるような走りを期待しています!

 

【過去のベストレース5戦】

 

 

という訳で、今年の

ベストレース5選でした。

 

 

これも毎度なんですが!

 

 

この5選をみて、何で俺のレースが

とりあげられねーんだよ!

来年は、俺のレースを観に来い!

 

 

というイキの良い選手が表れてくれれば

本当に最良です。

 

 

 

さて、長野県民の皆さん…

 

 

 

長野県の自転車選手たちは

この一年をかく戦いました!

来年も長野県の自転車選手たちに

どうか変わらぬご声援と

大会への御理解・御支援を賜りますよう

心よりお願い申し上げます。

 

 

そして、願わくば是非

直接会場へお越しいただき

選手達へ声をかけて頂ければと願います。

 

 

また来年も観る人の心に何時までも

残るような走りを期待しています。

 

 

関連LINK

長野県自転車競技連盟

長野県高等学校体育連盟

長野県スポーツ協会

日本スポーツ協会